「バッハのメヌエット」として世界中で親しまれてきたこの曲ですが、近年の研究により、真の作曲者はクリスティアン・ペツォルト(1677-1733)であることが判明しています。ペツォルトはドレスデンのゾフィー教会のオルガニストで、当時は著名な音楽家でした。1979年、音楽学者ハンス=ヨアヒム・シュルツェがこの曲がペツォルトの「組曲ト長調」の一部であることを発表し、約250年続いた誤解が解かれました。
この曲は、J.S.バッハが後妻アンナ・マクダレーナに贈った「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳」(1725年)に収録されていたため、長らくバッハの作品と誤認されていました。バッハは最初の妻マリア・バルバラを病気で亡くした後、ケーテン宮廷楽団のソプラノ歌手だったアンナ・マクダレーナと再婚。この音楽帳は妻や子どもたちの練習用に編纂されたもので、バッハ自身の作品のほか、ペツォルトやクープランなど同時代の作曲家の作品も含まれています。
曲はト長調、4分の3拍子のメヌエット。ト短調のメヌエット(BWV Anh. 115)と対で演奏されることも多く、明るいト長調と物悲しいト短調のコントラストが楽しめます。1965年には、アメリカの女性グループ「ザ・トイズ」がこのメロディーを4拍子にアレンジした「ラヴァーズ・コンチェルト」を発表し、全米2位の大ヒットを記録。日本でも小学校の音楽教科書にリコーダー曲として掲載され、昭和から令和まで愛され続けています。
演奏のポイントは、音を軽やかに扱うこと。ピアノのない時代にチェンバロ用に書かれた曲なので、大げさな強弱表現は避け、四分音符は少し切り離して弾くとメヌエットらしい軽快さが生まれます。2拍目から次の小節の1拍目にかけての音の塊を一つのまとまりとして感じながら弾くと、舞曲としての推進力が出てきます。装飾音はバロック時代の様式に従い、拍の頭から入れるのが基本。前打音も拍の中でしっかり演奏し、ロマン派以降のように拍の前に短く添えるのとは異なります。難しければ装飾なしでも構いませんが、慣れてきたら少しずつ加えてみましょう。